EYEVAN

 


 

EYEVAN × KYOTO
interview 9

「受け継ぐ仕事、受け継がれるもの」
石川漆工房 5 代目 石川良さん(創業1884 年/ 京都市伏見区)
昔、皇居があったことから、様々な工芸が栄えた京都。鯖江の越前漆器もその一つで、京都から日本各地に職人が移り住み、工芸が根付き、独特の発展を遂げてきた。石川さんは漆を通して、そして、京都の他の工芸の職人と連携しながら、祇園祭の山鉾の装飾品を作るなど、京都の伝統文化に貢献されている。石川さんに、漆、そして古来より受け継がれてきた伝統工芸についてお話をお聞きしました。
漆について
漆は太古から残る素材
漆とは、漆の木から取れる樹液のことです。ただ、カブトムシとかが好む蜜とはまた全然違って、自然には出てこないんですよ。専門の鉋みたいな道具で傷つけると出てくる。木が本能的に傷口を塞ぐために出す液体なんです。人間のかさぶたと同じ原理です。
日本に残る、一番古い記録では縄文時代の遺跡から漆が使われた形跡が見つかっています。最初は、漆 の原理も分かってないまま使ってたと思うんですよ。今のように、工芸に使われるようになったのは、奈良時代あたりの、いわゆる正倉院時代。今みたいに一般に普及されるのは、もっと後ですね。昔は、米とか塩とかと同じように税金として納品できるぐらい貴重品。仏教や神道で権力者が使うような素材でした。
職人と京都
技術が合わさり、文化をつくってきた京都
漆の仕事は分業制が基本でした。昭和あたりまでは「下塗り」「中塗り」「上塗り」と塗りだけでも工程が細かく分かれていたと聞きます。今は下塗りから上塗りまで、一人で塗る職人が増えたけど、それでもいろんな種類の職人さんと連携して、仕事をしています。たくさんの技術が組み合わさって出来てる物が多いんですよ。それはやっぱり京都ならではのことです。
継承について
働き続けられる環境をつくる
漆器の業界全体で若い人がいないかと言うと、実は希望者は多いんですね。高校や大学に漆芸を教わりたくて入る子たちは、毎年一定数います。ただ、その子たちが卒業して漆の仕事に就いているかというと、ほとんどないのが現状です。なぜかというと、受け入れる側が人を雇い切れないという状況がここ10 年20 年ぐらい続いている。だから、僕は希望者が多い間に、業界全体でそういった若者が続けられる環境を整えていくことが必要だと思っています。

譲れないこと
いかに丁寧にできるか
世の中や社会の時間の流れ方はもうどんどん速くなっているから、いかに時間に追われずに丁寧にできるかが大事です。ものを作る作業の丁寧さもあるし、人と接する時の丁寧さも必要です。忙しいと、丁寧さをないがしろにしがちになっちゃうんですけど、それが癖になるとどこかでボロが出る時があると思うんです。そうならないように、常日頃から丁寧さを心がける。それだけかなと思います。
伝統とは
誇り
漆は石油とかと違って、植えて採ってを繰り返し続けられるもので、そういう環境さえ作れれば永遠にできるいい原料だと思います。それがたまたま、日本とかアジアの地域にしかないっていうのはすごく恵まれていることですよね。地域独自のものでつくり続けられるのが魅力だし、誇りに思って続けていけたらいいなと思います。長く世代を超えて、物として受け継いでいくことができるので、そういった文化が少しずつ広がってくれたら嬉しいです。